キリストはキリスト教のみならず世界中の人間に聖人として認識される人物であるが、そんな彼に悪魔の兄がいるという伝承を知る人は少ないかもしれない。
これはキリスト教の異端集団であるボゴミル派と呼ばれる者達が広めた説で、それによるとキリストの兄はサタナエルという悪魔であるという。
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それによると、神は宇宙を創世した際にサタナエルとキリストの2人息子を生み出した。ある時サタナエルは神に謀反を起こして天界から追放されるが(堕天)、復讐に燃えている彼は神に対抗するために人間の世界を創造し、人間たちはサタナエルを神として崇めているというものである。
ボゴミル派の神話を整理すると、人間が神として崇めているものはサタナエルである、つまり人間たちは知らず知らずのうちに堕天使(悪魔)を崇拝しているということになる。
神を否定するかのような考えを持っていたため、当然本家キリスト教からは異端の集団として扱われていたが、その創世神話の影響からか信者を増やし続けていった。
時が経ち、ブルガリアがオスマン帝国(トルコ)に支配されるようになると周辺地域にイスラム教の影響が色濃く表れるようになり、ボゴミル派は世界からその姿を消してしまった。
堕天使サタナエルは神に謀反を起こした天使たちのリーダーであるという伝承がユダヤ教に伝わるだけでなく、時としてサタンやルシファーと同一視されることがあるが、それらにはボゴミル派のようなサタナエルがキリストの兄であるという伝承は存在しない。
この伝承が生まれた理由としては、ボゴミル派が求心力を得るためにキリストの名を使ったとする説が有力である。
キリストの兄が悪魔であるとするこの伝承、カトリックの全盛期であった時代にもかかわらず、異教(イスラム教)の力が介入するまで生き残ることが出来たことは驚きである。