キリスト教が広がりを見せていた時代、異端視されながらもその勢力を拡大し続けた神秘思想が存在した。
それをグノーシス主義、神を憎むべき対象とした思想である。
異端とされる一方、宇宙の真理を追及する思想という興味深い一面も持ち合わせている。
スポンサードリンク
どんな物事にも反対の考え方があるという現在では当たり前の発想が少なかった初期キリスト教時代において、グノーシス主義の存在は当然受け入れられないものであった。
グノーシスという言葉は「知識」という意味を持ち、主に地中海地方を中心としてその勢力を拡大しながらキリスト教を脅かすほどの広がりを見せていた。
グノーシス主義は神の存在を否定しているわけでは無いのだが、キリスト教における神の位置づけとグノーシス主義における神の位置づけは少し異なっている。
グノーシス主義において神とは宇宙のはるか彼方に存在している存在で、人間とはほとんど接点が無い。またキリスト教において地球を創世した神とされている存在は、真の神が生み出した堕天使ソフィアの子である下級の神に過ぎず、堕天使が生み出したこの世界こそが地獄であり同時に人間の肉体も魂の牢獄であるという。
そして魂が地獄から抜け出して真の神のいる場所へと向かうには壁に囲まれた7つの天(地獄)を通る必要があるとされた。
7つの天とは地球を囲む太陽系の惑星を意味し(当時の天体観測技術の観点から後付という説が有力)、それぞれに7つの大罪を当てはめている。
太陽(強欲)・水星(虚偽)・金星(浴場)・月(嫉妬)・火星(憤怒)・木星(傲慢)・土星(怠慢)、これらの星にはそれぞれ支配者(アルコーン)が存在して神の領域へ向かう魂を妨害する。そしてこのアルコーン達の正体はキリスト教世界の天使であると考えられ、アルコーンの妨害を打ち破るためには真の神が示したグノーシス(知識)が必要とされたのだ。
世界の創造神を堕天使(悪魔)としその上に真の神の存在を置いているグノーシス主義はキリスト教の一部に浸透して、グノーシス派と呼ばれる一大勢力を築き上げた。
仮に現在グノーシス派が存在すれば非常に興味深い集団としての地位を確立していたかもしれない。